研究

血管・脳・骨格筋機能の光制御

現代では西洋的食習慣や運動不足により、糖や脂質などの代謝異常が起こります。それと連動し、血管内皮細胞の機能不全が起こり、免疫細胞の活性化や炎症反応、さらには動脈硬化を引き起こします。私たちは神経細胞で光遺伝学的手法を用いた研究を行った経験から、血管内皮細胞において企図的なCa2+の流入によりeNOSの活性化とそれに続くNO産生促進やそのほかのCa2+上昇の下流で起こる正の反応を起こすことを報告しました。この研究手法をさらに進め、血管、神経、骨格筋の光制御により疾患への応用を目指します。

結節性硬化症の精神・血管異常のメカニズムの解明

結節性硬化症では神経系や血管系の細胞の結節性増殖が起こり、自閉症やてんかんなどの精神神経疾患を引き起こします。原因遺伝子のひとつであるTSC2の関与するmTORシグナル経路にリン酸化酵素SGK1が存在しますが、近年、結節性硬化症でのSGK1の過活性化の可能性が報告されています。我々は神経系におけるリン酸化酵素SGK1の意義の研究を続けており、結節性硬化症において神経幹細胞でのTSC2の異常とそれに伴うSGK1の活性変化が幹細胞の腫大化と細胞周期に与える影響について研究を進めています。

生体における亜鉛の役割解明

亜鉛輸送におけるイオントランスポーターの役割が知られていますが、亜鉛を透過するイオンチャネルの生理的意義は未解明です。私たちは亜鉛を透過する新規イオンチャネルを最近も報告しており、今後その生理的意義を解明していきます。

“危険は起こる前に防ぐ”―不確かな脅威に備える脳内メカニズムの解明―

ヒトやマウスを含む動物は、よく知らないものや、情報が少なく安全かどうかわからない状況に直面すると、警戒したり、不安を感じたりします。私たちの脳は、このような「よくわからない対象」を、まずは「潜在的な脅威」として捉え、安全かどうかを判断しようとします。これは、危険をいち早く察知して身を守るために、進化の過程で広く動物に保存されてきた仕組みだと考えられます。
そして動物には、このような潜在的な脅威に対処するための、さまざまな防御行動のレパートリーが備わっています。たとえばマウスは、初めて見る物体に遭遇すると、警戒しながら近づいて匂いを嗅ぎ、再び離れるといった行動を繰り返します。これは、対象が安全か危険かを確かめるための「リスクアセスメント」と呼ばれる行動です。また、床敷がある環境では、気になる物体を床敷で埋めたり、すみかの入口を塞いだりすることもあります。特に、子育て中の母親では、子どもを守るためにこうした防御行動が強く現れます。私たちは、このような「まだ起こっていない危険」に備える防御行動が、脳のどのような仕組みによって生み出されるのか、そして母性によってその仕組みがどのように変化するのかを研究しています。

骨格筋萎縮の病態解明と回復を促す物理的刺激の探索

超高齢社会を迎えた我が国において、加齢や不活動に伴う骨格筋の萎縮・機能低下は要介護状態を招く大きな要因の一つとして社会的に重要な問題となっています。骨格筋は身体を動かすだけでなく、マイオカインと呼ばれる生理活性物質を分泌する内分泌器官としても全身の健康維持に関わっているため、その衰えを防ぎ、衰えた骨格筋の回復を促すことは人々が生涯にわたって自立した生活を送る上で欠かせません。運動がその有効な手段であることは広く知られていますが、疾病や障害により自ら身体を動かすことが難しい場合も少なくなく、運動に代わる、あるいは運動を補完しうる治療手段の確立が求められています。
そこで、本研究では骨格筋の病態に好影響をもたらす物理的刺激に着目し、その効果と作用機序を組織学的・生化学的・分子生物学的手法を用いて多角的に検討しています。これまでに、温熱や拡散型圧力波が筋衛星細胞を活性化し、萎縮した骨格筋の回復を促進することなどを明らかにしてきました。これらの知見は運動が困難な状況にある患者に対しても適用しうる、身体への負担の少ない新たな治療手段の開発につながる可能性を秘めています。今後はこれらの物理的刺激が骨格筋にもたらす効果の分子基盤をさらに解明するとともに、運動の効果を選択的に再現しうる新たな治療手段の開発にも取り組んでいきたいと考えています。